編集長・石井の「華麗なる雑念人生」

あれもしたい、これもしたい。人生をもっともっと楽しみたい! そんな欲張りな考えのもと、人生を謳歌する編集長・石井の雑念にまみれた日々をお届けいたします。今回は過日京都にて開催された展覧会「エルメス・イン・ザ・メイキング」について。たった6日間の開催期間ということですでに終了していますが、その内容が素晴らしかったのでレビューをお届けいたします。


過日、京都・京セラ美術館で行われた「エルメス・イン・ザ・メイキング」展を訪れました。エルメス製造部門の各セクション(メチエ)を代表する職人が来日、実際に製品を作る工程や技術を披露してくれるという展覧会だったのですが、実はこれってものすごいことかと。通常、メゾンの技術のほとんどは非公開であり、秘伝のもの。それを抽選とはいえ一般公開してしまったのですから……エルメスの自信が伺えますよね。

まずはニキータ大好物のスカーフ「カレ」のコーナーから。シルクスクリーンの製版技術を目の前で見ることができました。「カレ」といえばその複雑な色の組み合わせが特徴ですが、なんと一色につき一枚のフレームを使用、通常のスカーフでも約30版を重ねるそうです。無論、一度の失敗も許されませんから、かなりの集中力が必要になるはず……いや、実際にそうなのですが、職人のす〜いすいと流れるような動きを見ていると、自分にもできるような気になってきて(笑)。

お次は「ケリー」の組み上げコーナー。約40のパーツをサドルステッチで繋ぎ合わせていきます。可憐な完成品からは想像できませんが、思ったより力仕事とお見受けしました。それはそうですよね、実用品としてのバッグゆえ、長年の使用に耐えうる頑強さは必須ですから。丁寧にそしてしっかり締め上げていく工程が印象的でした。

こちらは1990年代、とある伝説のレザーを復活させて作られたというバッグの展示。その伝説のレザーとは、200年もの間海に沈んでいたのちに引き上げられ、それでも使用に耐えうるクオリティで残っていたという「ヴォリンカ」と名付けられたロシアンレザーのこと。信じがたい耐久性を誇るレザーをエルメスが復活させ、我々の目前に出現したのでありました。

ほかにもリペア技術や馬の鞍の製造工程などを拝見しましたが、強く感じたのは職人の手仕事の奥深さと真のサスティナブルな思想。最高品質のレザーを最高の手仕事で作り上げた製品はそれだけで長く使えるものですが、リペアを施せばそれこそ親子何代にも渡って引き継いでいけるわけで。世のサスティナブル思想が少しだけ曖昧模糊としている今、これほどわかりやすくストレートな思想はないなぁ、と感嘆しました。

今回の展示会では、さまざまアトラクションもありました。そのひとつが馬の鞍が吊り下げられた撮影スポット。石井も調子に乗ってパチリ。前後逆に乗ってしまっていることは、ここだけの話であります……トホホ。